医学生のeveryday

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医学生の分子細胞生物学学習日記(30)

グロビン遺伝子ファミリーの進化の歴史

 グロビン遺伝子はみな、1個の祖先遺伝子から生じたに違いない。もっとも単純なグロビンタンパクは約150個のアミノ酸からなるポリペプチド鎖で、海洋のいろいろな虫、昆虫、原始的な魚類にも見られる。このタンパク質もヒトのヘモグロビン同様に体中に酸素分子を運ぶ。しかし哺乳類の成体や他の脊椎動物の血液中の酸素運搬タンパクは、もっと複雑で、αグロビンとβグロビンという2種類のグロビン鎖4本からなり、α2β2分子の4個の酸素結合部位が相互作用して酸素の結合と放出の際に分子の立体構造を変化させる。この構造変化のおかげで四本鎖のヘモグロビン分子は、単一鎖の分子にはできない変身を実現して4個の酸素分子を効率よく取り込み、放出できる。ヒトの場合、βグロビン遺伝子群は第11染色体に集まって存在する。また、ヒトのαグロビン遺伝子群は第16染色体に存在する。

αグロビン遺伝子とβグロビン遺伝子は、脊椎動物の進化の初期に起こった遺伝子重複の結果である(5億年前)。その後、いろいろな哺乳類が共通祖先から分岐し始めると、βグロビン遺伝子自体の重複と分岐が起こり、胎児のときにだけ発現する第二のβ様グロビン遺伝子が生じた。この胎児ヘモグロビン分子は、生体のヘモグロビンよりも酸素に対する親和性が高く、母体から胎児へ酸素を渡すのに都合がよい。その後α、βグロビン遺伝子それぞれで重複が繰り返され、これらのファミリーにさらに遺伝子が加わった。重複した遺伝子のそれぞれが、ヘモグロビン分子の性質に影響を与える点変異と、遺伝子発現の時期や強さを決める調節DNAの変化によって変わってきた。その結果、各グロビンは、酸素を結合して放出する能力及び発言する発生時期にわずかな違いがある。α、βグロビン遺伝子群には機能を持たない重複DNA配列がいくつか存在する。こうした偽遺伝子の存在は、DNAの重複のすべてが機能を持った新しい遺伝子を生み出すとは限らないことを示す。

ヒトゲノムに多数存在するほかの遺伝子ファミリーでも同様の遺伝子重複と分岐が繰り返されてきた。

 

ゲノム全体の重複は、脊椎動物の進化の初期に実際に2回続けて起こり、すべての遺伝子が4個ずつになったらしい。脊椎動物の一部では、もう一度重複が起こって遺伝子が8倍になった可能性がある。ツメガエル属のカエルは、ゲノム全体が重複して互いに2倍あるいは3倍の関係にある近縁種で構成されている。こうした大規模な重複は、特定の個体の生殖系列でゲノムが1回複製された後、細胞が分裂しなかった場合に起こることがある。